自尊心とは? 自尊心は高いほうがいいというのは実は間違い!?【わかりやすく解説!】

メンタル用語集

「自尊心」とは

「自尊心」とは、

「自分で自分のことを誇らしく思う心」
「自己に対する評価感情で、自分自身を基本的に価値のあるものとする感覚」

という意味です(英語では「self‐esteem:セルフエスティーム」)。わかりやすくいうと「自分のことをかけがえのない存在・価値ある存在だと思う心」ということです。「自己肯定感」「プライド」などの言葉と、ほぼ同じ意味です。

自尊心に関する通説

一般的に、多くの書籍やウェブサイトなどでは、「自尊心は、高いほうがよく、自尊心が低いことは悪いこと」と考えられています。

具体的には、自尊心が低いと、以下のようなマイナスの特徴があるとされます。

●自分を好きになれない
●ネガティブ思考にとらわれやすい
●自分の欠点ばかりを気にしてしまう
●他人の顔色を気にしすぎてしまい、自分の意見や考えを言えない
●人に褒められても、本当のことだと思えない

などなど。

しかし、最近の心理学の研究では、「自尊心が高いこと」はいいことであるばかりか、実は、様々なデメリットがあることが証明されています。

具体的には、「自尊心」が高いと、
●暴力的・攻撃的な傾向になりやすい
●恋愛などで問題が発生したとき、浮気をするなどの破滅的な行動を起こす可能性が高まる
●人をだましたり、アルコールやドラッグに走る可能性が高まる

などの悪影響があるという研究結果がでました。

しかし、社会では、相も変わらず「自尊心は高いほうがよく、自尊心を高めることはいいことである」といった認識が、いまなお主流になっています。自尊心を持つことがいいこととされていたのは、すべて過去の話なのに・・です。なぜこのようなことになったのか、「自尊心」の研究の歴史から見てみましょう。

自尊心の歴史

自尊心を肯定する研究の出現

「自尊心」が、最初に文献に登場したのは1892年のことですが、自尊心を肯定する研究が主流になり始めたのは、1950~60年代のことです。

自尊心を肯定する研究において有名なのは、自己尊重の父とよばれた心理学者のナサニエル・ブランデンの研究です。彼は、世界的ベストセラーとなった『自己尊重の心理学』において、「不安や鬱、愛や成功に対する恐怖、そして配偶者への暴力および児童への性的虐待にいたるまで、あらゆる心理的な問題のなかで、自尊心の低下が要因でないものは思いつかない」と指摘し、自尊心を持つことの大切さを説きました。

自尊心に関する幻想を打ち砕く研究の出現①

こうした中、自尊心を高く持つことの効果を実証するため、1980年代後半にカリフォルニア州で、「自尊心と個人的・社会的責任に関する特別委員会」(以下「自尊心委員会」といいます)設立されました。アメリカの一つの州が特別委員会を設置するほど、「自尊心」への関心が高まっていました。

この自尊心委員会の中心人物であったひとりに、ジョン・バスコンセロスという男がいました。

バスコンセロス曰く、若者の自尊心を高めれば
●犯罪や10代の妊娠
●薬物の乱用
●学業不振
●精神の堕落

が減少するとのことで、この主張を裏付けるべく、調査が開始されました。

しかし、いざ実際に調査をしてみると、バスコンセロスの主張の根拠となる結果はでませんでした。それどころか、

自尊心とそれを持つことで期待される効果の関連性は、まちまちであるか、取るに足らないほどか、全くないといえる
●自尊心と10代での妊娠・子どもへの虐待・ドラッグやアルコールの乱用の大半には何の関連もなかった

という結果がでてしまったのです。

なお、バスコンセロスは、こうした結果が出た後も「人は直感的に、それ(自尊心が大切だということ)が真実だと知っている」と科学的根拠のない発言をしたそうです。「自尊心=いいもの」といった考えが、いかに世間に根付いていたかを象徴する発言です。

自尊心に関する幻想を打ち砕く研究の出現②

自尊心委員会が、自尊心を肯定する証拠を探そうとして、逆の証拠を見つけてしまったあと、「自尊心=大切」とする考えをさらに打破する人物が現れます。

それが、心理学者のロイ・バウマイスターです。バウマイスターは、最初は自身も自尊心の信奉者だったのですが、研究をすすめるなかで、自尊心に対する疑念が芽生えていきました。そこで、バウマイスターは、自尊心についての科学的な検証をするべく、なんと約30年もかけて、15,000件以上もあった自尊心に関する調査を含め、研究を行いました。

そして、その結果が、2003年に発表され、

●自尊心が高いからといって、良い人間関係が築けるとは限らないこと
●自尊心と社会的成功の間に相関は皆無であること

などの結論が出されました。しかし、バウマイスターの研究結果は「単に自尊心と成功の間の相関がない」ことを指摘するだけにとどまりませんでした。なんと、「自尊心」が高いと様々な悪影響を及ぼすという結果を発表したのです。具体的には、冒頭に書いたとおり、自尊心が高いと、

●暴力的・攻撃的な傾向になりやすい
●恋愛などで問題が発生したとき、浮気をするなどの破滅的な行動を起こす可能性が高まる
●人をだましたり、アルコールやドラッグに走る可能性が高まる

ということが指摘されました。これまで長く信じられてきた「自尊心」神話を打ち砕く研究をバウマイスターは発表したのです。余談ですが、バウマイスターはこの研究により、「アメリカの自尊心を打ち砕いた男」と言われるようになりました。

自尊心が高くなるとなぜだめなのか

では一体、自尊心が高いと、なぜ数々の問題が起きるのでしょうか。ここで自尊心の定義をもう一度振り返ってみましょう。自尊心とは「自分のことをかけがえのない存在・価値ある存在だと思う心」のことですが、この自分のことを「かけがえのない存在・価値ある存在だ」と思うことが、実はかなり問題を生むのです。

具体的には、自分のことを特別視すると、

●「本当の自分」が見えなくなる
●ナルシシズム(自己愛・自己陶酔)が高まる

という現象が起きます。

「本当の自分」が見えなくなるのはなぜか?

自尊心が高まり、「本当の自分」が見えなくなるのは、自尊心が一種の思い込みを形成してしまうからです。

●自分は特別である
●自分はかけがえのない存在である

と思うと、「あらゆることにおいて、自分は優れているのだ」といった思いが無意識に形成されていきます。しかし、実際はあらゆることにおいて優れた人間などは存在しないし、当然、他人より劣った部分もあるのが人間です。

しかし、自尊心が高まるとその事実がみえなくなります。なぜなら「私は特別な存在なのだから、ダメな部分なんてないし、あってはいけない」からという思い込みが働くからです。

こうして、人は、自尊心が高まると「自分は優れている」という思い込みから、本当の自分の能力やスキル、性格などを認識することができなくなります。

ナルシシズム(自己愛・自己陶酔)が高まるのはなぜか?

ナルシシズム(自己愛・自己陶酔)が高まるのも、「自分のことを特別視」することからはじまります。「特別な自分(かけがえのない自分)なんだから、ほかの人からも愛されて当たり前。自分を中心に世界が回っていても当たり前」こうしたナルシシズムを形成していきます。

ナルシシズムが形成されてしまうと、人間関係などにおいて問題が発生します。

恋人関係で例を挙げると、ナルシシズムが強い人は「自分は特別だから、浮気をしても大丈夫」といった身勝手な考えを持ち、浮気に走るなどの行動を起こしたりします。しかし、一方で相手に浮気されると、激しく怒り時にはDVなどを働きます。自分は特別な存在だから浮気をしてもいいけど、恋人がするのは許せません。なぜなら、恋人が浮気をするのは、特別な存在である自分を軽視する行動であり、特別な自分がないがしろにされるなんてあってはいけないことと、思い込んでいるからです。

上記は一例ですが、このように自尊心が高まっていくと、ナルシシズムが形成され、人間関係などにおいて自己中心的なふるまいをするようになっていってしまう可能性があるのです。

しかし、科学の世界で「自尊心の悪影響」が証明されたにもかかわらず、いまだに世の中で「自尊心を高めること」を良いと考える風潮がなくならないのはなぜなのでしょうか。

いまだに社会で「自尊心を高めること」が良いこととされている理由

心理学者のターシャ・ユーリックは、いまだに社会で「自尊心を高めること」が良いこととされているのは、「フィール・グッド効果」が働いているためだとしています。

フィール・グッド効果とは、簡単にいうと「事実ではなく、心地いいと感じることを信じること」といった意味です。自尊心に関して言えば、「自分は特別だ」と思い込むことは、多くの人間にとって心地よいことです。そして何よりも手軽に行えることです。ただ思い込むだけでいいのですから。

しかし、自分が心地いいものにばかりしがみついていると、その瞬間は心地よくても、長期的にみると害を及ぼす可能性があります。たとえば、仕事で自分の不注意でミスをしたとして、上司に怒られたとします。ミスをしてしまったのは、自分の不注意なので原因は自分にあるわけですが、自尊心が高い人は「いや、たしかに俺がミスしたけどさ、そもそも上司が仕事を俺にふりすぎだよ」といった感じで、ミスの原因が自分にあると認めず、他人に責任を転嫁します。これは、短期的に見たら「自分を否定せずに済む」という点で、心地いい選択です。しかし、長期的にみたら、自分の人生に何の益もありません。なぜなら、本当の原因を解決していないからです。

「事実ではなく、心地いいと感じることを信じる」フィール・グッド効果は、このような害をもたらします。

話を自尊心に戻すと、「自尊心を高める」ことがいまだに社会で良いこととされているのは、多くの人にとって、そう信じることが心地いいという「フィール・グッド効果」が働いているからと考えられます。

大切なのは「自尊心」よりも「セルフコンパッション」

では、自尊心が高いのはだめならば、一体何を高めていけばいいのでしょうか。

その一つの答えが、「セルフコンパッション」です。セルフコンパッションとは、直訳すると「自分への思いやり」になるのですが、より詳しく言うと、セルフコンパッションとは、「自分の良いところだけではなく、悪いところ・ダメなところにも気づき、それらを受け入れ、自分への優しい感情を育てること」を意味します。

「セルフコンパッション」は、
①自分の悪いところ・ダメなところも含めて受け入れる点
②他者との比較が必要ない点

において、「自尊心」と異なります。

「自尊心」は、
①自分には悪いところなどないという考えを持つ点
②自分=特別である(裏を返せば「他人=普通である」)という、他者との比較

において成り立ちます。

しかし、「セルフコンパッション」は、自分の悪いところも認め、そのうえで自分に対して優しい感情を育てます。そこには、人間が特別なのかどうかといった価値観はありません。

セルフコンパッションで得られる3つの効果

セルフコンパッション研究の第一人者であるクリスティーン・ネフは、セルフコンパッションには、主に、以下の3つの効果があるとしています。

①幸福感・人生への満足感を高める
②ストレスを減少させる
③レジリエンス(再起力)が高まる

セルフコンパッションの高め方

セルフコンパッションの高め方として、代表的なのが「慈悲の瞑想」です。

慈悲の瞑想とは、自分や他人の幸せを願う瞑想のことです。具体的なやり方としては以下の通りです。

①ゆっくり落ち着いたところで、以下の言葉を唱える。(心の中でいってもOK)
「私が幸せでありますように」
「私が安全でありますように」
「私が健康でありますように」
「私の悩み・苦しみがなくなりますように」
②沸き起こってくる、感情や思考・感覚に気づき、再び①のセリフを繰り返す。
③①~②まで終わったら、今度は①のセリフの「私」を「恩人」「好きな人」「嫌いな人」「生きとし生けるもの」に変えて、①~②までを繰り返す

慈悲の瞑想が、セルフコンパッションを高めるということは、科学的にも証明されており、ある研究では、慈悲の瞑想を7週間実践させたところ、セルフコンパッション能力が高まり、先に挙げた①~③の効果を得られたそうです。そのため、7週間を目安として、慈悲の瞑想を行ってみるといいかもしれません。

内容まとめ

では、これまでの本記事の内容をまとめます。

①自尊心とは、「自分のことをかけがえのない存在・価値ある存在だと思う心」のこと
②「自尊心が高いこと・自尊心を高めること」は、一般的にはいいこととされている
③しかし、最近の心理学の研究において、自尊心が高いと様々な悪影響があるということがわかっている
④にもかかわらず、いまだに自尊心が高いことがいいことという考えが多く広まっているのは、「フィール・グッド効果」が働くためと考えられる
⑤「自尊心」の代わりに「セルフコンパッション」を高めるほうがよい
⑥セルフコンパッションの高め方として、慈悲の瞑想が効果があるとされている

自尊心についてもっと知りたい方のための本

セルフコンパッションについてもっと知りたい方のための本